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【第一章】

■ なんと、リフォーム価格「一千万円!」

 家持泰造(34)はある日、実家の両親に呼び出された。
(相談したいことって、何だろ?また、ろくなことじゃないな)
 半分、面倒臭がりながら、実家に入っていくと、母が「この家、リフォームして、二世帯住宅にしようと思うのだけど」と、突然切り出した。

 築30年は建っている実家は、泰造兄弟の成長に合わせて増築、リフォームを繰り返し、今ではカラクリ屋敷のように妙な形をしている。現在はアパート住まいをしている泰造と妻・優子(32)、息子の大地(3)が一緒に住むとなると、大掛かりなリフォームが必要だ。

(この家をまた、リフォームかぁ。まあ、建て替えるだけの蓄えはないからしょうがないか・・・。)

 家に対してさほど興味もなかった泰造は、両親の案に意義を唱えることなく、早速、リフォーム会社の担当者に会ってみることにしたのだが…。

「えっ、い・い・一千万円?」

泰造は耳を疑った。
リフォームで一千万円とは、思ってもみなかった金額だ。

「そうですねえ、こちらのお宅をすべてリフォームして二世帯にするとなるとねぇ、それでもお安いほうではないですか?」
人の良さそうな担当者はさらりと言う。

「…」。

■ 一世一代の大勝負
 それまで興味を持たなかった「家」の存在が、泰造の中でむくむくと大きくなり、漠然とした闘志が沸いてきた。
  元来、「はまる」性格。
  泰造は怪しむ優子の視線を横目に、夜な夜なパソコンと向き合い、「ローンシミュレーション」で自分の給料でどれだけのローンが組めるかを試算したり、リフォームの価格を調べたり…。

(俺の年齢を考えるとローンを組めるのは一度だけ。だったら…)。

真剣に、慎重に考え抜いた泰造は、人知れず「結論」を出した。

一週間後、「あのさぁ、ちょっと家、壊そうよ。新しいほうが良くない?」。泰造はすでに自分で決めた結論を、「さくっ」と優子に、そして両親に告げた。まるで、新しい家電でも買うような軽いノリ…泰造の巧妙な手口だった。
 「?」驚いて声も出ない優子と両親を尻目に、まるで住宅メーカーの営業マン顔負けの説明を始めた泰造。いつしか、まやかし?の術にはまった優子と両親は、「新しい家に住めるなら、いいかな」と夢見心地で了承したのだった。

■ 長くて険しい、現実の道のり
それからというもの、泰造、優子は幼い大地を連れて、様々な住宅展示場を見て回った。

「ねぇ、こんなに大きい家に誰が住むのかな?」 展示場にある巨大な家を見上げながら、優子はつぶやいた。
「お大臣様じゃないの」。やけくそになって泰造は答えた。

展示場にある家は立派過ぎて、泰造たちの描く普通の家がイメージできない。
(ピアニストじゃないんだから、ピアノホールなんかいらねーよ。家の中のブランコは誰が使うんだよ)。

展示場を回るたびに、泰造家族の疲労も増していった。
周辺の展示場を制覇し、すっかり「住宅通」になった泰造は、住宅業界のカラクリも分かってきた。

  例えば二世帯住宅三千万円という基本料金も、自分の好みに合ったキッチンやサッシなどを入れるとさらに膨大な金額が追加される。「規格外でできません」「契約外なので無理です」といった答えも頻繁に返ってきた。住宅事情を知れば知るほど、疑心暗疑になってしまった泰造夫妻。しかし、その分、泰造の闘志はさらに倍増していった。

(絶対、納得できる家を建ててやる。バンドマンとして鍛えた根性?を今こそ見せてやる)。

静かに、熱く心に誓う泰造だった。

 

 

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