【第二章】
■ 運命の出会い?芽生えたのは…
そんな時、リフォーム会社の担当者が紹介してくれたのが、「楽屋」だった。泰造は早速、楽屋のホームページを開いて「あら探し」を始めた。隅から隅までチェックしたが、考え方もシステムも突っ込むところが見当たらない。それでも「疑う」ことを身に着けた泰造は半信半疑で楽屋のスタッフにとりあえず会うことにした。
いきなり住宅の紙芝居を始めたスタッフは人の良さそうな好青年風。事務的ではない話し方に好感を覚えた泰造は、野生の勘で「この人なら信用できるかも」と思い、その日のうちに話を決めた。
以降、毎週のように行われるミーティングは両親、泰造夫妻、楽屋スタッフが参加しての大騒ぎ。不思議なことに、楽屋スタッフは、泰造がこれまで展示場などで多く耳にした「できません」を口にしない。泰造や優子がいくら無理難題を言っても、「やってみますか」と逆に瞳を輝かせる。「こいつ、ただ者ではないかも…」。泰造の胸中に芽生えたのは「信頼」だったが、優子の胸中に密かに芽生えたのは「闘魂」…、というより「眠れる獅子」を起こしてしまったのだった。
実は、小さいころから雑貨やインテリアに興味を持っていた優子。家を建てると決まってからは、家関係の雑誌を読みあさった。それでは満足できずに、周辺の図書館を巡って情報収集する熱血ぶり。毎回のミーティング前に家に関する予習は欠かさず、にわかデザイナーと化した優子。自分で簡単なデザインを描いては「こういうのがあったらいいんだけど」とやんわりと、しかし具体的に提案した。その変貌ぶりに、泰造や両親は度肝を抜かれたのだった。
■ 新しい家に家族の夢を満載
そんな優子に触発され、泰造も以前から思い描いていた夢をミーティングで発表する決心をした。
「ねぇ、俺さ、屋上が欲しんだけど」
「!?」家族全員が唖然とする中、「何を馬鹿なことを言っているの。雪が降ったら家がつぶれちゃうでしょ」と母が鶴の一声。
(ここは関東平野だよ。豪雪地帯じゃないじゃん)。
泰造は心の中で毒づいたが、さすがに大それた提案だと自覚していたため、反論できない。すると、「それ、いいですね」と楽屋スタッフがにやり。驚いたのは泰造のほう。思わず「えっ、できるんですか?」と尋ねていた。数日後、「屋上」はきちんと設計に加わっていた。もちろん、にわかデザイナーの優子の案も随所に取り入れられた。
優子が希望した、白とオレンジを互い違いに取り入れたキッチンの戸棚は、メーカーに一旦断られたが楽屋スタッフに相談した結果、望みはめでたく叶えられた。また、対面キッチンのダイニング側に設けた収納スペースは、優子が使い勝手を考えてデザイン画を作成。それを基に設計され、優子の理想のキッチンが出来上がった。
柔らかさを強調した照明、雨の日でも洗濯物が干せるよう、天井にはめ込むフック、ダイニングと入口通路に洗濯機を収納したロールカーテン…。優子や泰造が提案したり、楽屋スタッフが情報提供しながら、納得できる新居の青焼きが描かれていった。そして、なんと、バンドマンの泰造には、練習部屋として屋根裏の「個室」が与えられた。喜ぶ泰造の陰で、「これで騒音?を気にしないで済む」と家族全員が安堵したのだった。
■ 予算問題も解決、理想の我が家が完成
ところで、泰造が密かに心配していたのは「予算」。インテリアなどのカタログでも、どうしても高価なものを選んでしまっていた。(しかも、屋上が欲しいとか、好き勝手なこと言ってたしな)。すっかり予算を大幅に上回っていたかと思っていたが、最初に泰造がパソコンでシミュレーションした時より安く収まっていた。
「なんで、こうなるの?」。今度は泰造がキツネにつままれた気持ちになって楽屋スタッフに尋ねたら、「細かく計算して、こだわる所はこだわり、引けるところは引いた結果ですよ」としたり顔。なんだか一層、得した気分を味わい、(やっぱり楽屋を選んだ俺の目に狂いはなかった)と確信した泰造だった。
一階を泰造の両親が、二階を泰造家族が済むという二世帯住宅がようやく完成した。新築のお披露目も兼ねて友人たちを呼び、屋上でバーベキューパーティーを開いた泰造。
「なんかさー、自分たちで建てた家って感じがするよね」
泰造は傍らの優子にぼそっと話しかけた。屋上を抜ける心地よい風に目を細めながら、優子はにっこり微笑んだ。
愛妻の笑顔を見た途端、幸福感で胸がいっぱいになった泰造は突然ギターを手に取り、友人たちの迷惑を顧みることなく、熱い演奏を延々と始めた
のだった。